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定年延長と役職定年制度の運用

定年延長によってシニア社員の活躍を促進したいと思う企業は多いですが、正社員としての現役期間が長くなることによって、ポスト不足や組織の新陳代謝の遅れなど、別の問題が生じることもあります。そこで、対応策の一つとして「役職定年制度」が候補に上がります。元々大企業では一般的な仕組みであり、一般的な役職定年の年齢が課長クラスで55歳、部長クラスで57-58歳となっています。

役職定年によってポスト不足等の問題へ一定の対応ができますが、その反面、役職定年になったシニア社員の(賃金の減少や職務・役割の変更に伴う)モチベーションダウンが課題になります。この点、大半の企業は60歳定年再雇用制度を採用しており、役職定年が無くても60歳には役職を降りるのが一般的です。従って、これまでは長くても役職定年後の5年間という限られた期間の中で対象者のモチベーションを下げない形で活用できればよかったのですが、70歳雇用時代を迎え、65歳への定年延長あるいは70歳までの継続雇用が推進されていくと、役職定年後の期間も更に長くなるため、対象者のモチベーションを維持しながら活躍してもらうことはより難しくなります。

このような環境変化の中で、効果的な役職定年制度の運用方法について、人事制度的な側面(主に評価・処遇制度面)から少し考えてみたいと思います。

  • ポイント① 役職定年後の期待役割を明確化し、能力・経験を活かせる配置を行う

    役職定年制度の導入において最も問題となることは、役職定年を迎えた社員をどのように活用していくかということであり、各社共通で頭を悩ませているところです。役職定年制度が形骸化している企業の特徴としては、

    • ① 適切な後任者がいないため、「実質的に」役職を継続してしまっているケース(但し形式上は役職定年により給与は減額されているため対象者のモチベーションは低下)
    • ② 役職定年後に業務担当者に戻った際、対象者の持つ知識・スキルが陳腐化しており、再教育も間に合わず期待したパフォーマンスが発揮できないケース

    などが典型的ですが、単純に雇用期間だけが延長されて対策が講じられなければ、更に状態が悪化していくであろうことは容易に想像できます。

    そこで、まずはじめに、役職定年によりマネジメント業務を外れてもらった後、対象社員に何をしてもらうか、どういう活躍を期待するのか、ということを会社全体の方針として明確にしておくことが必要です。

    役職定年後の社員の活用方法として考えられる主な選択肢としては、
    ①技能伝承や後進育成の役割
    ②マネジメントの補佐的役割
    ③ベテランプレイヤーとしての役割
    の3つがあります。

    ①技能伝承や後進育成の役割

    特に製造業などにおいて、当該企業の競争力の源泉となっているような技術が計画的に継承されずに失われていくことが非常に大きな経営課題となっています。とりわけ中小企業においては、大半の役職者が同時に高度な技術者であることも少なくなく、役職定年後の役割として計画的な技能伝承を課すことは重要なテーマとなります。

    役職定年後にどの程度技能伝承に係わってもらうかについては対象となる技能の性質にもよるものの、当該企業にとって重要度が高い(緊急性、優先度ともに)ということであれば、技能伝承の対象者を早期に確定し、後進育成に特化した業務をフルタイムで実施してもらうことも一案です。

    ②マネジメントの補佐的役割

    後進となる役職者の伴走役として、引き続きマネジメントの役割を積極的に担ってもらうことも重要な役割になりえます。特に、組織構成において中間層が薄い企業(ベテラン管理職と若手・中堅中心)においては、若手の役職者を抜擢して早期に活躍できる状態にするため、役職定年者に期待したい役割の一つです。

    実務上は、「マネジメント補佐」としてどこまでのことを担ってもらうのかを明確にしておくことが欠かせません。ともすると、役職者よりも前に出てしまうようなことがあれば本末転倒ですし、逆に引きすぎても役職者の早期成長を促進できないため、各企業ごとにバランスをとる工夫が必要です。

    ③ベテランプレイヤーとしての役割

    実際には①②よりもこちらの役割を担ってもらうケースの方が多いものと思われますが、それだけに形骸化しやすい役割設定であるとも言えます。この点、対象者が専門とする業務を単に一業務担当者として遂行してもらうということに止まらず、(それはそれとしてやってもらうとして)培ってきた知見や経験をもとにベテランならではの役割を発揮してもらえることが理想であるため、運営サイドとしては、そのような取組みがなされる環境を積極的に作っていくことが重要です。

    上記①~③の期待役割については、役職定年後に一貫して同じ役割を担ってもらうケースもありますし、会社主導により、数年おきに役割を変えることでその時々で最適な配置を行っている例もあります。このあたりは本人の意向に沿いつつ、会社としての計画とマッチさせることができれば理想です。

  • ポイント② 期待役割に沿ったメリハリのある評価・処遇を行う

    次に、期待役割を設定するだけではなく、期待役割に沿った評価基準を設け、役職定年後の処遇とも連動させていく一連の取組みが重要になります。

    基本的な考え方は、大まかな期待役割に準じた評価基準をつくるということで良いのですが、特に重要なポイントは、できるだけ短期の目標設定を行い、達成度に応じてメリハリのある処遇(ある面では役職定年以前よりも)を行うことです。

    そもそも役職定年後の業務に対して前向きに捉えることができる人はそう多くないでしょうし、多くの場合賃金が役職定年前と比べて減額になっていることと相まって、ビジネスマンとしての「上がり感」のようなものが発生してしまい、どうしても仕事のパフォーマンスは下がりがちです。そうした中で、自身に求められる役割を正しく認識し、役職定年後も仕事のパフォーマンスを落とさないようにするためには、目標設定や評価・処遇の仕組みを通じて常に成果を意識する機会(成果次第で処遇が上がることもあれば、下がることもある)があることが重要になると考えられます。

  • ポイント③ 組織インフラの整備を含め、役職定年前の段階から必要な準備を行う

    最後に、役職定年後の社員を活用するために必要な、組織インフラの整備を含めた計画的な準備を行っておくことが求められます。

    例えばベテランプレイヤーとしての役割を発揮してもらうにあたり、役職経験の長かった社員にとって、ブランクを埋めることはそう容易いことではないというケースもあるでしょう。技術の進歩が目覚ましい業界であれば特に、現場で求められる知識やスキルの変化は激しく、陳腐化も早いということであれば、役職定年後にそうしたギャップを埋めるためのトレーニングの機会を与えることは最低限必要でしょうし、むしろ役職定年を迎える前の段階から、そうした教育ないし自己投資の機会を計画的に与えていかなければ遅いという判断もありうるでしょう。

    役職定年前の段階から必要な準備を行うという視点は多くの企業で欠けていると言わざるを得ません。また、これらはすぐに実現することができない性質の取組みが多く、だからこそ役職定年制度の運用で成否の差が最も出やすい部分でもあるため、改めて重要な取組みと認識していただきたいと思います。

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