定年延長・再雇用 人事制度改定の検討ポイントと企業事例POINT

定年延長・再雇用における人事制度改定の検討ポイント

「65歳への定年延長」「70歳までの再雇用制度の新設」といった企業事例をニュース等で見かける機会も増えてきましたが、まだまだ全体数としては少なく、特に中小企業では身近に参考にできる例がほとんど無いため、「何から始めればいいか分からない」という現場の声が大変よく聞かれます。

ただ、数少ない成功企業を参考にして見切り発車的に人事制度改革に着手した企業では失敗例も多く、大半は改革途上で頓挫するか、後戻りを繰り返して無用に取組みが長期化しています。その主な原因としては、「定年延長・再雇用」に取り組む初期段階での社内検討が不十分なことにあります。

ここでいう「初期段階での検討」で必要なこととは、具体的には、

  • ① 定年延長・再雇用に取り組む目的を明確にする
  • ② 自社における高年齢化の傾向を分析し、固有の課題を明確にする
  • ③ ①②を踏まえた上で、短期、中長期双方の視点で高年齢者活用の方針を明確にする

といったことを指します。このような検討を初期段階で十分に実施することで、その後の人事制度設計をスムーズに展開することが可能になります。

「定年延長・再雇用」の取り組みに対するアプローチ方法

「定年延長・再雇用」の取り組みに対するアプローチ方法

さて、ここではどの企業でも実践しやすい手法として、「人員分析」「賃金・人件費分析」「職場環境分析」の3つについて簡易的に紹介します。「何から始めればいいか分からない」という経営者、人事担当者の方にお勧めできる手法ですので、是非取組みのスタートとして参考にしてみてください。

  • 人員分析

    人員分析とは、組織内で将来的に高年齢者層のボリュームがどう変化するか、そのことにより組織でどんな問題が起こりうるのか、という観点で課題抽出を行う方法です。例えば、一般的な企業の人員構成として、①30歳代半ばから後半の層が少なく、②40歳代半ばから50歳代前半の層が多い、という「中抜け型組織」という類型が挙げられます。その他にも、「中太り型」「高齢化型」という類型が典型的です(下図参照)。

    人員分析
    資料出所:株式会社新経営サービス人事戦略研究所作成

    中抜け型組織に関しては、ベテラン層が厚く安定的な組織構成という見方もできますが、逆に言えば比較的近い将来に大量の定年者が一気に発生するリスクを抱えていることを経営課題として捉える視点も重要です。

    中抜け型組織で高年齢者活用を考えるにあたっては、高年齢者層に求める役割を「現役の継続」と設定するか、逆に「権限移譲、後進育成の強化」と捉え直すかによって、高年齢者活用の取り組みスタンスが変わってくることになります。前者の場合、幹部候補となる中間層の育成が間に合わない可能性が高ければ、高年齢者層への現役続行の期待は高く、そのため定年延長を行う方針が優先順位として上がってくることもありえます。

    このように、組織の人員構成に関する現状と将来に対する分析を踏まえた上で、高年齢者活用の方針と具体的な人事制度の設計に反映させていくことが、現状分析の一つ目の重要なポイントになります。

  • 賃金・人件費分析

    賃金・人件費分析の基本的な考え方としては、高年齢化に伴う総額人件費の上昇を抑制しつつ、高年齢者層の個別賃金の最適化を図るために、外部の統計データと社内の状況を照らし合わせて正しく課題を認識し、目標設定を行うことにあります。

    まず、総額人件費の分析については前述の人員分析と同時に行います。具体的には、5年、10年といった中長期の人員予測に合わせて、一定の条件下(入退社予測、昇進昇格予測、昇給予測等)における総額人件費のシミュレーションを行います。

    次に、高年齢者層の個別賃金については、「対外的な競争力と、社内的な納得感」の2つの視点から検証と目標設定を行います。

    多くの企業において、定年再雇用後の賃金は現役時より大幅に下がることが一般的ですが、定年前と同一労働であるケースが多く、高年齢者層のモチベーションダウンにつながっています。前述の人員分析で紹介した「中抜け型組織」における高年齢者活用方針との絡みで言えば、定年延長を行うにあたっては高年齢者層の賃金水準の引き上げが重要な検討課題に上がってくるでしょうが、総額人件費の上昇が許容できる範囲に止まるかどうかという点も併せて検討しておく必要があります。

  • 職場環境分析

    前述の人員分析及び賃金・人件費分析により導かれた高年齢者活用方針との対比で、現実の組織において高年齢者活用がどの程度行えているかを明確にする方法が職場環境分析です。具体的な分析は、ソフト面とハード面に分けて行います。

    • ①ソフト面の分析
      仕事自体に対する高年齢者層の満足度を調査する方法がソフト面の分析です。具体的には、仕事のやりがいや、職場の人間関係、金銭面・健康面での不安はないか、といった項目に対して調査を行います。
    • ②ハード面の分析
      各種人事制度をはじめとする、社内制度や就労環境等に対する高年齢者層の満足度を調査する方法がハード面の分析です。賃金・評価制度に対する不満は無いか、オフィスなど職務環境に対する不満は無いか、能力開発・キャリアアップ等の仕組みは十分か、といった内容について調査を行います。

    それぞれの調査の進め方としては、地道な作業にはなりますが、高年齢者層及び高年齢者層を抱える部署の管理職者に対して、アンケート調査(記名又は匿名)及び個別面談による聞き取りを中心に実施していく方法が確実です。

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