定年延長・再雇用 人事制度改定の検討ポイントと企業事例POINT

企業事例②B社のケース~定年延長を機に、高年齢者層のキャリア再開発を行った事例~

次に、65歳への定年延長をきっかけとして、高年齢者層のキャリア再開発を行うことで、多様な働き方を支援する取組みを行った企業の事例(B社)を紹介します。同社の取組みには、「選択定年制度」や「独立支援制度」といった特徴があります。詳細は以下の通りです。

B社の抱える高年齢者雇用の課題

  • 短期的には人材不足対策として高年齢者層の活躍が必要だが、逆に中長期的にみると高年齢者層が増え過ぎて組織の新陳代謝に悪影響を及ぼすおそれがある
  • 将来的には自社で働き続ける従来型のキャリアパスだけでは限界があるため(全ての高年齢者層を従来のように処遇できない)、全社的に上手く人材の流動化を促したり、高年齢者層が多様なキャリア、働き方を選択していけるような仕掛けが必要

多店舗展開を図るサービス業のB社は同業他社と比べて平均年齢がかなり高く、今後計画的に組織の若返りを図っていく必要性を感じていますが、中間層が不足している現状では高年齢者層にまだまだ活躍してもらわなければいけない状況でした。

同社では定年延長を軸に短期的な高年齢者活用の仕組みを整えていくことに加え、中長期視点で組織の新陳代謝を高めていくために、「ネクストキャリアプラン(下図参照)」を導入しました。主な特徴は、「選択定年制」、「独立支援制度」の2つです。

ネクストキャリアプランの全体像

ネクストキャリアプランの全体像
資料出所:新経営サービス人事戦略研究所作成資料
  • 選択定年制の導入

    同社では定年延長を機に、新定年年齢を65歳に引き上げました。従来の再雇用制度では定年後に給与処遇が引き下げられていましたが、新制度では65歳までは正社員としての処遇が継続されることになります。

    一方で従来と同様に、60歳時点で定年を選択できる仕組みを残している点が特徴です。定年は60歳か65歳の何れかで本人が選択することができ、60歳到達の1年前の段階で意思確認が行われます。60歳での定年を選択した場合は、その時点で退職金の支給を受けることができ、かつ、65歳時点での支給よりも割増しを受けることが可能です(65歳定年を選択した場合は、退職金の支給は65歳まで延期される)。

    60歳定年を選択する場合、退職金を受け取ってそのまま退職することもできますが、従来の再雇用制度に準じた形で、嘱託社員として勤務することも可能です。この場合、60歳時点で給与の引き下げが行われますが、仕事の量や責任の程度を軽くした働き方が可能になります(条件が合えばパートタイム勤務も可能)。実際には、副業・兼業をすることを前提として、敢えて60歳時点での定年再雇用を選択する社員も出てきています。

  • 独立支援制度の導入

    独立支援制度の概要は以下の通りです(下図参照)。原則として55歳以後の社員を対象に、会社が提示する条件に合致する場合には、フランチャイズのような形で店舗オーナーとして独立することが可能になる仕組みです。

    元々、同社の高年齢者層の中でも、高い専門性を有した社員からは自身の経験・ノウハウや人脈を活用して柔軟な働き方を望む声が上がっていたこともあり、組織の新陳代謝を図りながら、新しい高年齢者層の活躍を実現していくことを目的にスタートしました。多店舗展開をする同社ならではの業態を利用した制度であると言えます。

    独立支援制度の概要と基本的な運用ルール
    概要・原則として55歳に達した社員のうち、以下の条件を満たす者が希望する場合、FC店舗オーナーとして独立を支援する
    ・例外的に上記年齢に達しない場合でも、審査により独立支援対象者として認める場合がある
    条件・勤続15年以上で、勤務成績が優秀な者
    ・エリア長(複数店舗管理)以上の役職経験者
    審査方法・経営会議による審査(申請書を基にした審査)
    ・管理部長による対象者の所属長へのヒアリング
    ・社長面談による最終決定
    独立支援の内容・既存店の譲渡(新規出店予定の店舗含む)
    ・金銭的支援策(出資、融資等)
    ・独立準備支援(在籍中からの開業準備支援、指導など)
    ・独立後の運営支援(スタッフ派遣、採用支援等)
    資料出所:新経営サービス人事戦略研究所作成資料
  • ネクストキャリアプラン導入後の状況

    ネクストキャリアプランについて全社説明会を実施したところ、高年齢者層には総じて好意的に受け止められ、中でも独立支援制度についてはすぐに関心を示す社員が現れました。とんとん拍子に話が進み、50歳代後半の社員2名を対象に、制度開始初年度から独立支援制度を活用したモデル事例をつくることができました。定年を待たずに新しいキャリアを選択した社員の事例は非常にインパクトがあり、高年齢者層の意識にも良い影響を与えています。

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