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企業事例研究:住友電設の定年延長、70歳までの再雇用制度

(独)労働政策研究・研修機構が主催した、第123回労働政策フォーラム「高齢者の雇用・就業について考える」(2022年12月7日~12日)で、住友電設株式会社の「定年延長と70歳までの再雇用制度」が事例紹介されました。

同社制度のポイントは、以下のようになります。

① 65歳までの定年延長とし、60歳以降も賃金減額は行わず、昇進・昇給を可能とする。
② ライン長の役職定年は60歳とするものの、部長クラスは個別に役職継続を認めるケースがある。
③ 65~70歳までの再雇用制度では、健康面に加え一定の過去評価を再雇用基準として明確化した。
④ 65歳以降の賃金水準は、役割・責任により65歳以前の55%~80%(平均70%)で決定する。

それぞれのポイントについて、標準的な企業との比較で考えてみます。

  • ① 65歳までの定年延長とし、60歳以降も賃金減額は行わず、昇進・昇給を可能とする。

    モチベーション維持には効果的ですが、大企業においては、かなり思い切った制度と言えます。中小企業の中には、定年延長時に60歳以降の賃金水準を維持するケースも見られますが、大企業では稀ではないでしょうか。しかも、昇進や昇給まで可能としています。更に注目すべきは、既に60~64歳の再雇用契約となっている人材を正社員に再任用し、基本的に給与を60歳前の水準に戻すことにした点でしょう。確かに再雇用者からの不公平感は解消されると思いますが、手続きの煩雑さなどハードルが高いのも事実だからです。
    今回の施策に伴う原資捻出のため、59歳以下の賃金カーブを引き下げるといった施策も記載されていませんので、人件費アップは覚悟の上での積極的な定年延長制となっています。

  • ② ライン長の役職定年は60歳とするものの、部長クラスは個別に役職継続を認めるケースがある。

    60歳以降の役職継続も、中小企業においては少なくないものの、大企業では珍しいのではないでしょうか。60歳という役職定年年齢自体も高めですが、60歳以降も必要な部長クラスには、役割を継続してもらおうというのです。組織の若返りを阻害する懸念はありますが、せっかくの適任者であるなら、年齢に関係なく活躍してもらった方が良いということでしょう。ただし、自社で実施する際には、組織の年齢構成や後任候補者の質と量にもよりますので、会社ごとの状況に応じた判断が必要です。

  • ③ 65~70歳までの再雇用制度では、健康面に加え一定の過去評価を再雇用基準として明確化した。

    2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法で、事業主に対して65歳から70歳までの就業機会確保措置が努力義務化されたことに対応した制度改定です。それまで個別対応としていた65歳以降の雇用を、過去3年間の評価結果など、具体的な条件を定めています。これにより、より長く働きたいシニア人材にとっては、引き続き就業できる見通しが立ちやすくなったと言えそうです。65歳以降の就業確保においても、「努力義務」である現時点で積極対応しており、極めて先進的な事例となっています。

  • ④ 65歳以降の賃金水準は、役割・責任により65歳以前の55%~80%(平均70%)で決定する。

    さらに、65歳以降の賃金水準を現役世代の平均70%としている点は、かなり手厚い処遇となっています。その上で、役割・責任により調整することで、しっかりと役割を担う人材に対しては、就労意欲の維持に大きな効果が期待できそうです。一般的には、65歳以降は年金受給との兼ね合いからも、パート社員並みの賃金水準に抑える企業も少なくありません。同社は、70歳までの就業確保というだけでなく、待遇面においても充実した内容となっています。

  • 以上、住友電設株式会社の定年延長、70歳までの再雇用制度について見てきました。シニア人材の活躍やモチベーション維持という観点からは、理想像のような制度設計となっています。しかし、全ての会社がこのような制度導入を目指すべきとは思いません。

    同社は、電力工事・設備工事を中心としたエンジニア主体の会社であり、現場管理など60歳以降でも経験者や公的資格保有者が、十分に活躍できる業種です。一方で、どうしても一定年齢以上のパフォーマンスや生産性が、低下傾向となる業種もあります。そのような業種の企業は、シニア層の待遇を充実させるよりは、初任給など若年層の待遇改善に重点配分した方がよいかもしれません。

    シニア人材活躍と人件費がバランスする制度は、どのあたりか? 定年延長に踏み切るかどうかも含め、各社の組織課題を踏まえた慎重な判断が必要です。

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