企業事例③C社のケース~定年延長と再雇用を組合せ、段階的に定年年齢を引き上げた事例~
最後に、一気に定年を65歳まで引き上げるのではなく、段階的に引き上げることとした事例(C社)を紹介します。制度改定当初は定年年齢を60歳から63歳まで引き上げ(新定年年齢到達は再雇用)、今後数年をかけて65歳まで引き上げていくという特徴があります。詳細は以下の通りです。
C社の抱える高年齢者雇用の課題
- 近年、60歳以上の優秀な高年齢者層の離職が相次いでいる
- 定年再雇用後に離職するケースが多く(60歳~62歳の間で離職する)、原因として賃金水準の低下率が問題視されている
- 同業他社では60歳以上の高年齢社員の賃金引上げの動きがみられる
- 63歳を過ぎると、逆に離職者は減る傾向である
建設・工事業のC社(60歳定年制。定年後は継続雇用制度を採用)では近年、定年再雇用後の離職が相次ぐようになっていました。人事部で退職者への個別面談を行ったところによると、再雇用後の賃金水準の低さが大きな原因となっているようでした。
同社の定年再雇用制度の特徴として、60歳到達時点で基本給が減額され、以後65歳まで1年ごとに更に低下していく(管理職と非管理職で下げ幅に違いがあり、管理職の方が下げ幅が小さい)ということがあります(下図参照)。
現行制度(定年再雇用制度)
役職区分 | 60歳以後の処遇ルール | 60~61歳 | 61~62歳 | 62~63歳 | 63~64歳 | 64~65歳 |
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定年再雇用 開始 |
再雇用 | 再雇用期間 満了 |
||||
管理職 | 定年時の基本給から 一定割合減額 |
基本給×90% | 基本給×80% | 基本給×70% | 基本給×70% | 基本給×70% |
非管理職 | 定年時の基本給から 一定割合減額 |
基本給×70% | 基本給×60% | 基本給×50% | 基本給×50% | 基本給×50% |
この点、同社人事部が更に調査を進めると、C社の属する地域における近時の建設・工事需要の高まりから、同業他社における高年齢者層を中心とした賃上げの動きがあり、相対的に自社の賃金競争力が低下していることが明らかになりました。
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段階的定年延長の導入
今後も同様の問題が起こる可能性があることを危惧したC社では、早期に高年齢者層の賃金水準の見直しに着手することとしましたが、「定年再雇用制度」という現行制度の位置づけのままでは高年齢者層の引き留め策としては不十分であることから、定年延長を実施するという決断に至りました。
但し、定年は一気に65歳まで引き上げるのではなく、まずは63歳までの延長としました。主な理由としては、高年齢者層の離職が60歳代前半に固まっていたことと、定年延長に伴う高年齢者層の賃金引上げ余力として、同社が現実的に許容できる範囲が63歳までであったことが挙げられます。今後は新制度の運用を数年かけて行う中で、将来的に65歳あるいはそれ以上への定年延長を見込んでいます。
賃金制度の扱いについては、下図を参照してください。
定年延長後の新制度では、63歳までの期間は基本給の減額を無くしています(下図参照)。63歳以後は従来通り継続雇用となるため、その時点で一定の減額がなされますが、旧制度の63歳以後の水準と比べても引き上げは行われています。新制度(定年延長+再雇用制度)
役職区分 60歳以後の処遇ルール 60~61歳 61~62歳 62~63歳 63~64歳 64~65歳 定年延長期間 定年再雇用
開始再雇用期間
満了管理職 定年時の基本給から
一定割合減額基本給×100% 基本給×100% 基本給×100% 基本給×90% 基本給×90% 非管理職 定年時の基本給から
一定割合減額基本給×100% 基本給×100% 基本給×100% 基本給×80% 基本給×80% 資料出所:新経営サービス人事戦略研究所作成資料 -
新制度導入後の状況
定年延長が正式に発表されたことはもとより、60歳からのベースの給与水準が引きあがること(厳密には減額されないことになった)に加え、生涯年収が増加すること、また今後も生涯現役に向けて安定的な雇用を実現し、勤務環境も整えていくことなど、高年齢者活用に向けた総合的な計画が丁寧に説明されたことにより、同社の新制度は社員から好意的に受け止められ、その後、高年齢者層の目立った離職を抑えることができています。