定年延長・再雇用 人事制度改定の検討ポイントと企業事例POINT

企業事例①A社のケース~詳細な現状分析を制度改善に活かした事例~

ここでは、65歳への定年延長を実施する意思決定に際して、自社の詳細な現状分析が活かされた中小企業の事例(仮にA社とする)を紹介します。詳細は以下の通りです。

A社の高年齢者雇用の実態

  • 定年年齢は60歳
  • 定年後、希望者は1年更新の契約社員として65歳まで雇用される
  • ここ数年で定年再雇用者が急増
  • 再雇用後は定年前と比べて給与が大幅に下がるため、再雇用者の仕事に対する意欲と生産性は低い

現状分析の結果

①人員分析

  • 同社のボリュームゾーンは30代前半と50代前半に集中しており、「中抜け型組織」に該当
  • 今後5年間で幹部層・ベテランプレイヤー層が一気に定年を迎えるものの、次世代の幹部を育てるには期間的余裕が少なく、当該層が再雇用となって現役を退くと組織運営に支障をきたすおそれがあると判断

②賃金・人件費分析

  • 同業他社と比べ、定年再雇用後の社員の賃金水準は明確に低い
  • 賃金水準の引き上げにより総額人件費が増加するが、高年齢者層に現役同等の活躍を してもらい、生産性を向上させていくことで十分に賃金上昇分をカバーできると判断

③職場環境分析

  • 高年齢者層へのアンケート・インタビューの結果、再雇用後の働き方に対して、「より精力的に働きたい」「責任のある仕事を通じて仕事のやりがいを感じたい」という 意見が多数を占めた
  • 管理職層へのアンケート・インタビューの結果、まだまだ高年齢者層に現役として活躍してもらえる余地(事業環境としても)があるという意見が多かった

A社経営陣の中には、組織の若返りを重視すべきとの立場から、定年延長に反対する意見もありましたが、中抜け型組織の現状から、高年齢者層に現役として中継ぎをしてもらわなければ組織が立ち行かなくなる危険性が高いとの経営トップの意向により、高年齢者層の位置づけを早期に明確化するためには定年延長を行うことが必要であるとの方針が決定されました。

ただ、上記はあくまで一例であり、組織実態の評価如何によっては全く逆の結論が出ることもありえます。それだけに、丁寧な現状分析を行うことが、定年延長を含む高年齢者活用の取り組み方針を決定するにあたり非常に重要である、まずはそこからスタートすべきである、ということを考える一助にしていただければ幸いです。

A社定年延長の検討過程まとめ

テーマ取り組み概要
人事制度60歳定年制であり、定年後は1年単位の契約更新による継続雇用制度を採用
人員分析・「中抜け型組織」であり、人員のボリュームゾーンは30代前半と50代前半に集中
・今後5年間で定年者が急増するが、次世代の幹部育成には期間が足りない見込み
賃金/人件費分析・定年再雇用後の賃金水準は同業他社と比べて低い
・賃金引上げによる総額人件費上昇の懸念があるが、高年齢者層の生産性向上により、
賃金上昇に向けた原資を生み出すことは十分に可能
職場環境分析・継続雇用後の大幅賃金ダウンにより、モチベーションダウンが発生
・仕事に対するやりがいを求める声が多く、潜在的な意欲は高い
事業環境分析・市場全体としては拡大傾向だが、海外市場開拓の営業マンが圧倒的に不足
・営業チームを増やしていくにあたり、マネジメント人材も不足している
高年齢者活用方針組織の若返りを早める方が優先であるという経営陣の意見もあったが、高年齢者層を現役化し、早期に戦力化すべきとのトップの意向から、定年延長を決定
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