定年延長・再雇用 企業を取り巻く環境ENVIRONMENT

企業における高年齢者雇用の実態と課題

ここからは、幾つかの統計データを参考にしながら、企業における高齢者雇用の実態と課題について見ていきましょう。

  • 企業における高齢者雇用の実態

    ~65歳への定年延長ないし70歳までの雇用を実施している企業の割合はどの程度か?

    厚生労働省発表「高年齢者雇用状況等報告(令和3年)」によれば、「定年を65歳にしている企業の割合」と「66歳以降も雇用される制度のある企業の割合」は以下の通りです。

    65歳定年企業の割合

    集計企業数全体で21.1%、労働者数301人以上の企業で13.7%、労働者数31~300人の企業で20.8%、労働者数21~30人の企業で24.1%となっています。社員規模の小さい企業の方が定年延長をしている割合が多い理由としては、相対的に人出不足の影響が大きく、その分高年齢者活用の必要性が高いことが挙げられるものと推察します。

    65歳定年企業の割合
    資料出所:厚生労働省 令和3年「高年齢者雇用状況等報告」集計結果
    集計対象:全国の常時雇用する労働者が21人以上の企業232,059社  

    66歳以降の雇用の仕組みがある企業の割合(※定年が65歳未満の企業も含まれる)

    集計企業数全体で38.3%、労働者数301人以上の企業で34.1%、労働者数31~300人の企業で37.8%、労働者数21~30人の企業で40.9%となっています。

    70歳までの就業機会確保の努力義務化を受け、今後、65歳への定年延長はまだ行わないにしても、従来の継続雇用制度をベースとして、66歳以上の雇用の仕組みを先行して整えようとする企業が増えてくることも十分に考えられます。

    66歳以降の雇用の仕組みがある企業の割合
    資料出所:厚生労働省 令和3年「高年齢者雇用状況等報告」集計結果
    集計対象:全国の常時雇用する労働者が21人以上の企業232,059社
  • 企業における高年齢者雇用の課題

    今後、高年齢者が増加してくることで企業が抱える可能性のある実務上の課題についてみておきましょう。主な課題は以下の3つに整理することができます。これらの課題に関して自社の状況を見える化することにより、望ましい雇用延長(定年延長・再雇用)の方向性について具体的な検討を行うことができるようになります。

    組織人員構成の歪み

    全社員に占める高年齢者層の割合が大幅に増加していく中で、中長期的に各企業において組織人員構成の歪みが生じる可能性があります。

    組織の新陳代謝が適切に行われなければ、「必要な世代交代の遅延・停滞」が発生したり、あるいは「高年齢者層が担当できる仕事の確保が困難になる」など、組織運営に多大な影響を及ぼす事態に発展する可能性もあるため、早い段階で計画的に対策を講じていくことが求められます。

    総額人件費の上昇

    高年齢者層の増加によって、多くの企業で「総額人件費の増加」が懸念される中、高年齢者層の賃金を今後どのように設定するのか(現役社員との処遇上のバランスも含めて)ということが非常に重要な経営課題となってきています。

    例えば一つの方向性として、高年齢者層の賃金水準を引き上げていく方法があります。引き続き人手不足が解消されず、高年齢者層の活躍に対する市場ニーズが高まっていけば、大半の企業が定年後の継続雇用制度で賃金ダウンをしている現状に対して、賃金水準を改善していくべきという議論も出てくるでしょう。事実、高年齢者層に対して働き方の満足度を調査したあるアンケートでは、半数以上が給与に関する不満を抱えている、というデータもあります。

    高年齢者層の生産性低下

    高年齢者層の生産性低下も懸念されます。仕事に対する体力面・意欲面の低下懸念はもちろんのこと、再雇用後の組織内における「人間関係」が課題になるケースもあります。例えば定年した元上司が再雇用後に部下になってしまったことで、管理職者がマネジメントを行いにくくなったいう話もよく聞かれます。

    各企業においては今後、雇用延長に伴って必要な「職場環境の整備」を総合的に実施することにより、高年齢者層の生産性低下を防止するための取り組みが求められてきます。ただし、こうした取り組みは、すぐに成果が出る性質のものではないため、時間をかけて計画的に実施していく姿勢が重要になります。

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