60歳を境に賃金が下がる従業員は少なくありません。
そこを下支えしてきた高年齢雇用継続給付が縮小されたことで、定年再雇用や60歳以降の賃金設計は、これまで以上に人事の重要テーマになりました。
とくに、60歳以降の給与を「給付込み」で設計していた企業では、社員の実質手取りが想定より下がる可能性があります。
制度変更を知らないまま運用すると、再雇用面談や給与説明の場で不満が噴出しやすくなります。
60代前半の手取りはどう変わるのか
高年齢雇用継続給付は、60歳到達時の賃金と比べて75%未満に下がった場合に支給される雇用保険の給付です。
2025年4月1日以降に60歳へ到達した人は、支給率の上限が15%から10%へ縮小されました。
たとえば、60歳時点の月給が40万円で、再雇用後の月給が24万円になったケースを考えます。
従来は「24万円×15%=3万6,000円」の給付がありましたが、改正後は「24万円×10%=2万4,000円」となり、毎月1万2,000円の差が出ます。
年間では14万4,000円、5年間続けば72万円の差です。
給与が同じでも、給付縮小によって60代前半の生活費や住宅ローン返済計画に響くため、社員への説明はかなり丁寧に行う必要があります。
もう一つ、厚生労働省のQ&Aに近い考え方で見てみます。
60歳到達時の賃金月額が30万円で、再雇用後が18万円の場合、低下率は60%です。
改正前なら、18万円に15%を乗じて2万7,000円程度の給付が見込めましたが、改正後は18万円×10%で1万8,000円になります。
つまり、同じ再雇用条件でも、制度改正後は毎月9,000円、年間10万8,000円の差が生じます。
この差は、本人にとっては小さく見えても、60歳から65歳まで積み上がると大きな金額になります。企業側が「再雇用だからこの程度でよい」と考えていると、シニア人材の離職やモチベーション低下につながりかねません。
人事担当者が確認すべきこと
まず確認したいのは、60歳以降の賃金が75%未満に下がる社員がどれくらいいるかです。
そのうえで、定年再雇用の契約更新時期、職務変更の有無、短時間勤務の採用状況を棚卸しします。
次に、就業規則と再雇用規程を見直し、賃金が下がる理由を説明できる状態にしておくことが重要です。制度改正の説明が曖昧だと、「なぜ自分だけ手取りが減るのか」という不信感を招きやすくなります。
また、管理職にも情報共有が必要です。現場での面談時に誤った案内をしてしまうと、人事への問い合わせが急増し、制度対応が後手に回ります。
定年再雇用の見直しポイント
対応の軸は、60歳以降の賃金水準をどう設計するかです。
高年齢雇用継続給付を前提にした給与テーブルは、支給縮小後に見直しが必要になります。
方法は一律の賃下げだけではありません。役割給の導入、短時間勤務、職務限定、成果連動の要素追加など、複数の選択肢があります。定年延長と定年再雇用のどちらが自社に合うかを再検討する企業も増えています。
人手不足が続く今、60代前半を「補助的な働き手」と見るか、「経験を持つ重要な戦力」と見るかで、制度設計は大きく変わります。給与だけでなく、業務設計や働き方の柔軟性まで含めて考えることが、離職防止に直結します。
社員説明と社内対応
社員説明では、制度の用語説明よりも「いくら下がるか」を先に示すと理解されやすくなります。
たとえば、月給24万円なら給付は従来3万6,000円相当だったものが2万4,000円になる、と具体的に示す方法です。
あわせて、老齢厚生年金や社会保険料との関係、年間ベースの差額も伝えると、従業員は現実感を持って受け止めやすくなります。
面談資料や説明会資料に、再雇用後のモデルケースを3パターンほど載せておくと実務で使いやすいです。
高年齢者雇用は、制度改正を知らせるだけでは不十分です。
定年再雇用、高年齢者雇用安定法、賃金改定、就業規則まで一体で整えることで、はじめて運用が安定します 。

