「65歳定年義務化」という言葉は、ニュースやネット記事でしばしば見かけますが、法律用語ではありません。法改正で義務づけられているのは「65歳までの雇用確保措置」であって、「定年年齢を65歳にしなければならない」わけではない点が重要です。
高年齢者雇用安定法では、企業に対して次のいずれかを求めています。
- 定年制の廃止
- 定年の65歳までの引き上げ
- 希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度の導入
この3つのいずれかで「65歳まで働ける道を用意せよ」というのが義務であり、定年そのものは60歳以上であれば法律上は足りるままです。
60歳定年義務化から、65歳雇用確保までの流れ
今の65歳雇用確保義務は、過去の60歳定年義務化・年金支給開始年齢の引き上げとセットで考えると理解しやすくなります。
- 60歳定年義務化
高年齢者雇用安定法の2004年改正により、企業が定年を定める場合には「60歳を下回ることができない」とされ、原則として60歳未満の定年は禁止となりました。それ以前は、法律で「定年は60歳以上でなければならない」とまでは規定されておらず、企業ごとに55歳や57歳など、比較的早い年齢を定年としているケースも存在しました。年金が60歳から支給される時代に、大枠として「60歳定年+60歳から年金」でセットとなったわけです。 - 年金支給開始年齢の段階的引き上げ
その後、老齢厚生年金の支給開始年齢は、報酬比例部分から順に65歳へと引き上げられました。これに合わせて、「少なくとも年金受給開始年齢までは働ける環境を」という趣旨で高年齢者雇用安定法が改正されています。 - 2013年改正と経過措置
2013年施行の改正で、65歳までの雇用確保措置の導入が求められましたが、「基準に該当する人だけ継続雇用」という経過措置が認められていました。
この経過措置が2025年3月31日で終了し、2025年4月からは希望者全員を対象に65歳までの雇用を確保することが完全義務になります。
つまり、「60歳定年義務化 → 年金65歳化 → 65歳までの雇用確保完全義務化」というのが、大きな流れです。
2025年4月「65歳までの雇用確保」完全義務化のインパクト
2025年4月以降、企業は次のいずれかの形で、65歳までの就労機会を必ず用意しなければならなくなります。
- 定年を65歳に延長し、そのまま正社員として雇用を継続
- 60歳定年のままでも、希望者全員を65歳まで再雇用(定年後再雇用制度)
- そもそも定年制を廃止して、能力・健康状態に応じて雇用を継続
ここで誤解されやすいのが、「定年自体が65歳に変わる」という理解ですが、法律上は「定年は60歳以上ならOK」のまま、雇用確保の義務だけが65歳までに引き上げられた、という構造です。
ただし、現時点では「60歳定年+65歳まで再雇用」が主流ではあるものの、人材確保等の観点から「65歳定年」を選ぶ企業が徐々に増えてきている。結果として、「法律上は義務化されていないが、実質的には65歳定年が主流になる」タイミングが、徐々に近づいてくると見る向きもあります。
70歳就業確保と、今後「70歳定年」が見えてくるタイミング
さらにその先には、「70歳就業機会の確保」という努力義務がすでに制度化されています。
現行制度では、企業は70歳までの就業機会を確保するよう努めることが求められていますが、これはまだ「努力義務」にとどまっています。
しかし、少子高齢化・年金財政・健康寿命の延伸を考えると、65歳雇用確保が「当たり前」になった段階で、70歳までの雇用確保や就業機会が、将来「義務」に格上げされる可能性は高いと見るべきでしょう。
推測の根拠としては、次のようなポイントが挙げられます。
- 60歳定年義務化の後、年金支給開始年齢の引き上げに合わせて65歳までの雇用確保が整備された経緯
- 2025年に65歳までの雇用確保措置が完全義務化されることで、企業側の制度整備が一巡すること
- 労働力人口の減少が加速しており、65歳以上も「戦力」として期待せざるを得ない状況
この流れを踏まえると、「65歳定年が企業の過半数」「70歳就業確保が実質的なスタンダード」という状況が生まれたタイミングで、「65歳までの定年義務化」「70歳までの雇用確保義務」が議論されても不思議ではありません。
ただし、結論的には、現時点で「65歳までの定年義務化」について、政府・法令レベルで具体的な協議や法案が公に示されているわけではなく、「65歳までの雇用確保義務」がまず無収入期間を埋めるための施策として優先されている状況です。
将来、70歳就業確保が義務化される段階で「65歳定年」が結果的に標準化・事実上の義務化に近い形になる可能性はありますが、今のところはあくまで推測の域を出ません。
実務的には「事実上の65歳定年」が先に来る可能性
政策・法律とは別に、実務の世界では次のような流れが見えつつあります。
- 国家公務員は、2023年度より段階的に定年年齢を引き上げ、2031年4月以降に65歳定年へ移行する予定。
- 民間企業側も、労働力不足を背景に、自主的に65歳定年への延長や定年制廃止を進める。
- 再雇用の人件費・賃金制度の見直しを通じて、60〜65歳の待遇を引き上げる。
- 結果として、法律に書かれていなくても「65歳定年が多数派」の状態が先に訪れる。
その後に、「法律は現実を追認する形で定年65歳を明文化する」可能性もありますし、「法律は60歳以上のまま維持しつつ、70歳までの就業機会確保だけを義務化していく」という可能性もあります。

